黄金分割と黄金デザイン

概要とメリット

書籍「黄金デザイン」
1.美と安らぎを感性から数値化へ

 20世紀末から急速な進歩を成し遂げるコンピュータ・テクノロジーは、人類社会の進歩に留まるところを知りません。その結果、アナログ事象は急速にデジタル化され、人間の想像を超え変貌を続けている。判りやすい事例として、カメラがそうである。アナログのフイルムカメラはいまや劣勢である。レンズを通過した光をフイルム上に画像として取り込み、アナログで映像化してきたが、デジタルカメラの出現によって、光の強弱や色彩を瞬時に数値化することによって、退色や変色することなく映像として永久に保存することが可能となったのである。
 しかし、”美しさ”という美的感覚を数値化することは極めて難しく、人の感性に委ねなければならない。構図や色味、コントラストなどの最終調整は、人の手にゆだねられている。画像が数値化できたのに、あいまいな美の感性を数値化することはできないのか?

「美についての数値化とはなにか?」

この答えとして一番有力な理論は黄金分割(比)である。
(用語の定義については書籍黄金デザインの索引を参考にしてください。ここでは黄金比は黄金分割と同じこととして黄金分割を使う。)

エジプトのピラミッドやギリシャのパルテノン宮殿、パリのエッフェル塔やミロのビーナス、ミケランジェロやゴッホの絵画、バカラのグラスを眺めていると、なぜかバランスの良さを感じます。それは不安感ではなく心の安らぎのようなものである。これらの形状を客観的に分析すると、黄金分割で構成されていることが見られる。
黄金分割でデザインされた形状は、そこはかとなく美しさと心地よさを与えてくれるのである。
ギリシャのパルテノン宮殿はなぜかバランスの良さを感じます。それは不安感ではなく心の安らぎのようなものである。これらの形状を客観的に分析すると、黄金分割で構成されていることが見られる。
2 黄金分割とは

ここでは、黄金分割とは黄金数φ(1.618....)で割ったり乗算したりすることで、得られる数列とする。黄金分割数列と表現すべきかもしれない。

100を基準としたら、黄金数φで割って、61.8、 38.2、 23.6、 14.6、 9.0、 5.6、 3.4
100より大きな数は黄金数φを乗算して、161.8、 261.8、 423.6、 685.4、 1109.0

このように小さい値から大きな値までの数列である。
(ここでは計算が簡単な100を基準にしているが、黄金デザインでは6フィートを基準に選んでいる。)
3 黄金分割で家を建てる。

このことを、最初に唱えたのはル・コルビュジェである。
彼はモジュロールを提案した。黄金のモジュールの意味の彼の造語である。

マルセイユのアパートはその記念碑的な建築である。
実にバランスがよく、オシャレである。40年近く前に建てられたものだが、古さを感じさせない

ル・コルビュジェのモジュロール

黄金のモジュールの意味の彼の造語である

モジュロールの発表以前に設計されたSavoye邸は、図面を分析してみると、比率はモジュロールである。この家が第二次世界大戦前のものだとは、とても思われないほど現代的で美しい。
4 しかしモジュロールは広がらなかった

 その理由は当時パソコンがなかったからだ。パソコンなしで黄金分割を自由に使いこなすことは、実用的ではなかった。パソコンが現状の能力に達して初めて、黄金分割が設計に使えるようになった。(現状の32ビットパソコンでも精度の点で不満なところがある。)

 パソコンCAD で設計することが一般的になったのは10年ほど前からである。CAD があればすぐ黄金分割が設計に使えるわけではなかった。
5 黄金分割の言葉が必要

黄金分割を設計で使うには、黄金分割の言葉が必要である。
長さならば長さの言葉が必要である。単位のようなものである。メートル法は製作工場のためのもの。心地よいデザインはそのことを説明できる言葉が必要である。

その単位で寸法を表示してはじめて黄金分割が設計に使えるわけである。

その言葉を本として発表したのが書籍「黄金デザイン」である。

言葉とはAEN黄金値である。
長さの言葉はgdで示される。共同執筆者の白石氏とで半年をかけて決めた言葉である。
CADソフトに長さの言葉で表現できる機能を追加することができるようになった。3次元とプレゼンに強いソフトとして世界的に有名なVectorWorksで機能を追加することができるようになった。

このAEN黄金値の研究は、まったく別のところからスタートしたのであるが、内容がモジュロールを包括していた。そこでル・コルビュジェに敬意を示して、長さのAEN黄金値はモジュロールと互換性を取った。6フィートを16gdとした。この本では比率や角度、音階についても黄金値を提案している。
AEN黄金値で設計することを黄金デザインと呼ぶことにした。
モジュロールをAEN黄金値で表現すると、赤の数列と青の数列の関係がはっきりした。
赤は1次黄金値で青は2次黄金値のgd+5である。
モジュロールではmmであったが、黄金値にすることで、長さの関係が単純に表現できる。
ル・コルビュジェの作品はAEN黄金値で示すことができるし、黄金デザインでもある。
黄金値をパソコンCADで利用すると、簡単に設計することができる。
6 黄金デザインのメリットとは

a  バランスがよい。
b 自由に組み合わせられる。


この2点がメリットである。

バランスが良いこととは、構造的に最適であり、形がきれいであることである。


その例として、エッフェル塔がある。

黄金値の形状であれば、色んな大きさを自由に組み合わせることができる。このことが黄金互換性である。
黄金値で設計した3つの机があり、普段は別々の部屋で使っていたとする。 多数の来客で大きなテーブルが必要になったら、一緒に組み合わせる。
黄金値で作られた家具は、便利さと美しさを兼ね備えている。
AEN黄金値で設計するならば、机のメーカが異なっても、このような組み合わせが可能となる。
7 黄金分割の言葉をきれいに発声するには

・ 優先順位は組み合わせの易さの高い順番

一次黄金値
2次黄金値で gd+5、gd+6
2次黄金値で gd+4、gd+7
2次黄金値で gd+3、gd+8
2次黄金値で gd+2、gd+9
2次黄金値で gd+1、
3次黄金値


・ 1/2をなるべくさける
(1/2とは対立関係であり、色相なら科学的な補色で調和がとれない。一次黄金値の2倍は黄金値だが、1/2の黄金値は存在しない。自然には無駄は存在しない。)

・ 同じものの繰り返しはさける
(チューリップの球根を等間隔で植えたら、花は兵隊さんの行進みたい。TVのガーデニングでの言葉。自然林には等間隔はない。)

・ 目的 機能にそったレイアウト
人の体を参考にして
大きいテーブルに小さい足はおかしいし、小さいテーブルに大きな足はおかしい。
8 設計者と発注者とがこの言葉で会話してください。

感性で議論していては、曖昧でコミュニケーションがとれません。
設計図を黄金値の言葉(AEN黄金値で示して)で会話してください。
9 黄金分割の算数

黄金数(1.618....)で割ったり乗算したりすることで、得られる数列は、足し算でも同じ数になる数列である。

xと+の一致、この簡単な算数が全体と部分との調和を生んでいるのだ。

黄金分割の数列とは乗算と足し算とが一致する関係の数列である。だから、小さいものから大きな物まで、比率が一定で、部分が全体となり、きれいに組み合わせられるので、素敵な心地よいバランスが生まれるのである。部分を拡大してもバランスがいいし、組み合わされた全体もバランスがよいのだ。

a 乗算とは一定の比率で大きくなることである。
b 足し算とは部分を組み合わせると全体となり、全体は部分の合計である。

このことが黄金分割における調和の原理を生むのです。
xと+の一致、この簡単な算数が全体と部分の調和を生んでいるのだ。

黄金分割の数列とは、かけ算と足し算の一致する数列にすぎない。

映画や小説のダビンチコードで出てくるフェボナッチ数列とは、実は足し算だけの数列である。
6:4分割では、分割点が重ならないので混乱が生じる。
黄金分割では分割線がきれいに重なる。時計のような小さなものから、都市計画まで黄金分割のガイドの線は重なり合っている。これが黄金分割における調和の原理である。
10 黄金分割より優れた美の理論はあるのだろうか?

10.1 自然は黄金分割で読める
自然を分析すると、そこには黄金分割を多く見いだすことができる。
卵ひとつとっても、その形状は黄金分割でできているのだ。
10.2 美しさと愛らしさ

バランスが取れた美しさと愛らしさは一見異なる基準であるように思われる。
美人も黄金分割だし、愛らしいキティーチャンも黄金分割になっている。

10.3 銀比

紙のサイズは1:ルート2(1.414ノ)で出来ている。
この比率をプラチナ比、白金比、銀比と呼ぶ人もいる。

A1を1/2にするとA2が出来、A2を1/2にするとA3 ができる。
A4サイズはいまや、生活の紙の標準サイズになろうとしている。

しかし、このサイズをデザインしようとすると、しっくりこないのである。
どことなく、バランスが取れなくて困ってしまう。
銀比には便利さがあるが、美しさが欠けている。
人間は比率が正方形に近い所は感覚が鋭いが、細長くなると黄金値から離れても気がつかなくなる。この性質を使ってA4のデザインを行った。端部は黄金値で正確にレイアウトを行い、中央部で銀比との折り合いをつけた。
10.4  揺らぎの心地よさを黄金デザインに生かす

黄金デザインのガイドは左右対称で、上下も対称である。物を配置する時に自然の心地よさを取り入れるには、1/2をさけ、等間隔をさけ、同じ大きさの繰り返しをさけることである。このことはゆらぎとして表現されていることに近いことだと思っている。黄金デザインではガイドを使うことで、変化のあるレイアウトがバランスよく配置することが容易になる。
揺らぎに黄金デザインのガイドを使うと、微妙な変化点の関係も黄金値になる。  全体のバランスが取れるだけでなく、素材と素材の間の小さな空間も黄金値になり、バランスがよく感じることになる。
10.5 日本人と黄金分割

ゴッホの絵と同じように速水御舟の「炎舞」も絵の中心は黄金分割点になっている。
黄金分割が美しいとの感覚は、人種に関係なく持っている。
このことは人類が肌の色が異なる以前からDNAに書かれているのではないかと思われる。
日本人の美についての感覚はとても鋭く、掛け軸や桂離宮にも黄金分割が見られる。
11 おわりに

ここでは、黄金分割と黄金デザインのほんの概要をしめした。
AEN黄金値のことは簡単に説明しにくいことと数字が嫌いな人もいることから結果としての値を示した。詳しくは著書の「黄金デザイン」を読んでほしい。
誰でも美人は分かりますが、美人を簡単に描けるものではありません。
黄金デザインを使えばだれでも上手いデザインができます。
黄金デザインを無視してデザインをしても、完成度を上げた作品は黄金デザインになっているはずです。
美の法則は一つしかなく、黄金分割以外に美の法則はないと思われるからです。
(美の法則が二つあるとすると、ミスコンテストは成立しないことになります。)

黄金デザインを多くの人が使い、ここちよいデザインに囲まれることを願って。